一度抜けた前歯の保存治療|院長自身の歯の外傷と長期経過を紹介
ぶつけた歯の再植と整復、その後
歯をぶつけた影響は長期に及びます
当院の院長・堀切は約20年前、野球のボールが前歯に当たり、1本が完全に抜ける「完全脱臼」、両隣の2本がグラグラする「亜脱臼」という外傷を負いました。
抜け落ちた歯も、グラグラした歯も、必要な処置を行った結果、約20年が経過した現在まで、3本とも自分の歯として維持できています。
20年前に前歯が抜けましたが、今も維持できています
歯が完全に抜けてしまっても、すぐに適切な処置を受けることで、残せる可能性があります。
また、歯を元の位置へ戻した後も、歯の神経に影響が出る場合があり、経過観察と適切な処置が重要になります。
この記事では、院長自身が経験した前歯の外傷とその後の約20年間の経過をひとつの症例として紹介します。
※外傷後の治療は、受傷からの時間、歯の保存状態、損傷の程度などによって異なります。
完全脱臼1本、亜脱臼2本
部活動中に歯にボールが当たってしまい、完全に抜け落ちました(画像はイメージです)
約20年前、当院の院長は野球部だったのですが、部活動していた時にボールが口元に当たり、左下の前歯を強く打ちました。
前歯の1本は完全に抜け落ち(完全脱臼)、両隣の2本も衝撃によって内側へ位置がずれました(亜脱臼)。
完全脱臼とは
歯が歯を支えている骨から完全に抜け落ちた状態です。
亜脱臼とは
歯が歯を支えている骨にまだ存在しているものの、位置がずれ、ぐらぐらしている状態です。
▼今まさに歯をぶつけて完全に抜け落ちた方は、時間との勝負です。なるべく早く歯科医院にかかりましょう。
歯が抜けた後、すぐに歯科医院へ
すぐに抜けた歯を拾いましたが、場所は野球場。周囲にコンビニなどもなく、歯を保存するための牛乳を購入することができませんでした。そこで、抜けた歯を口の中に入れて保管し、そのまま母校である歯科大学病院へ向かいました。
歯を強くぶつけた後は、見た目に分かりやすい歯だけがダメージを受けているとは限りません。すぐにレントゲン撮影など検査を受け、処置がされました。
抜けた歯の再植
持参した歯を歯科医に渡したところ、その歯をお口に戻す処置をしました。
再植とは
再植とは、外部からの力で完全に抜けた永久歯を、元の位置へ戻す処置です。
内側にズレた歯の整復
再植と同時に、内側にズレてしまった歯の位置を治してもらいました。
整復とは
整復とは、外部からの力で位置がずれてしまった歯を、適切な位置へ戻す処置です。
再植・整復した歯を固定し、歯を安静に保ち、歯の周辺組織の回復を待ちます。
受傷後の経過観察と処置
お口に戻した歯が安定しました
再植した前歯、整復した前歯がそれぞれ安定している状態になりました。
根管治療
再植・整復した後、歯牙自体は安定したのですが、治療後、経過観察の中で歯根吸収が見受けられました。
この場合は、自覚症状がなくても、根管治療を行う必要があります。
根管治療とは
よく歯科医院で「神経を抜く」という言葉で表現される治療を「根管治療」といいます。歯の内部に根管というトンネルがあり、その内部には歯の神経や血管が通っているのですが、これらを除去して清掃・消毒します。
※外傷を受けた歯のすべてに根管治療が必要になるわけではありません。
当時の根管治療ではMTAセメントが使用されました
この症例で、根管治療を担当してくださったのは、当時大学病院で勤務されていた橋爪先生で、根管治療や歯内療法を専門的に行う、橋爪エンドドンティクスデンタルオフィスの院長を務めています。
橋爪先生がこの時使用してくださった材料が、当時はまだ珍しかったMTAセメントです。
MTAセメントは、現在でも保険適用外の薬剤で、根管の汚れを取った後の充填に使われる薬剤です。封鎖性や生体親和性が高いのが特徴です。
※MTAセメントを使用すれば、すべての歯を保存できるというわけではありません。お口や歯の状態により、予後は異なります。
院長より
ノブデンタルオフィス東雲 院長 堀切 雅文
外傷を受けた当時は、私にとって大変つらい出来事でした。
歯が抜けたことへの驚きだけでなく、
「元の見た目に戻るのか」
「歯を残せるのか」
「将来どうなるのか」
という不安がありました。
しかし、この経験がきっかけとなり、根管治療に興味を持つようになりました。
歯科医師となった現在は、歯の外傷で悩まれている患者さんの気持ちに、実体験を通して共感できるようになったと感じています。
振り返ってみると、この経験は、歯科医師として成長する上で大きな財産になったのかもしれません。
歯をぶつけて、ご不安を抱えている方へ
歯をぶつけた後は、年月を経てから歯の根や内部に影響が出る場合があります。
担当医が変わることがあれば、外傷した歯があることを伝えましょう。
なお、外傷を受けた歯の経過観察では、歯科医師は主に次のようなことを確認しています。
- 歯の色
- 痛みやしみる感覚
- 歯の動揺
- 噛み合わせ
- 歯ぐきの状態
- 歯の根や骨の変化
このような症状があれば、歯科医院へ
以前ぶつけた歯に、次のような変化がある場合は、一度状態を確認しましょう。
- 周囲の歯と色が違う
- 噛むと痛い
- 歯が浮いたように感じる
- 冷たい物や温かい物がしみる
- 歯ぐきが腫れている
- 歯ぐきにできものがある
- 歯がグラグラする
- 噛み合わせが変わった
- 以前に外傷を受けた歯だが、しばらくレントゲンを撮っていない
外傷を受けたのが数年前、十数年前であっても、歯科医師に相談しましょう。
いつ、どのように歯をぶつけたのか、覚えている範囲でお伝えください。
まとめ:歯を強く打ったら、歯科医院に診てもらいましょう
20年以上前に歯を強く打ち、その際、完全に歯が抜けた場合でも、自分の歯を再植して保存できた症例について紹介しました。
この症例で紹介してきたように、適切なタイミングで適切な治療を行ったことで、歯が保存可能になりました。
ここでは、すべての治療を行ったからといって歯の保存が必ずできるわけではありません。しかしながら、適切な治療を行っていなければ、歯の保存ができていなかったことは間違えありません。
歯の将来的な健康を大切に考えたい方は、ぜひ適切なタイミングで適切な治療を受けられることをお勧めします。
| タイミング | 必要な治療 |
|---|---|
| 歯を打った直後 | 歯が抜け落ちている場合は、緊急性が高いです。 目に見える症状が無くても、すみやかに歯科医院の診察を受けられると安心です。 |
| 歯を打った後の数十年 | 歯科医院の指示に従い、経過観察をしましょう。 |
| 歯の色・痛み・しみる感覚・噛み合わせが気になる方 | すみやかに歯科医院の診察を受けましょう |
よくある質問
歯の変色は、神経や歯の内部に変化が起きている可能性を示す症状の一つです。
ただし、歯の色だけで神経の状態を断定することはできません。
神経の反応、レントゲン所見、痛み、歯ぐきの状態などを確認して判断します。
痛みがなくても、歯根吸収や歯の根の先の炎症などが進行している場合があります。
外傷の程度に応じて、レントゲンを含めた経過観察を行うことが大切です。
はい、当院では外傷後の根管治療を行っています。
MTAセメントや治療時にマイクロスコープを使用する保険適用外の精密根管治療も取り扱っています。
当院では、白いセラミックやジルコニアを使用した審美・修復治療も行っており、前歯の審美面でお悩みのニーズに応えています。
極力痛みを抑え、一本でも多くご自身の歯を残すことにこだわっています。